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なぜステーブルコインは金融インフラのネクストスタンダードとして議論されているのか 〜現金・カード・銀行振込の限界と次世代決済〜

これまでの記事では、ブロックチェーンが社会インフラとして再評価されている背景、そして国家インフラとして求められる設計思想について紹介してきました。今回は、ブロックチェーンが新しいインフラ層となった時、その上で流通するお金ー「ステーブルコイン※」について、解説していきます。

※ステーブルコインには様々な種類があり、それぞれに異なる「法定通貨への裏付け」がありますが、この記事では、ステーブルコインは政府発行の現金および現金同等物と1:1のペッグ制を政府によって義務付けられていると仮定します。(例:USDCやJPYC)

ステーブルコインが金融インフラの文脈で議論される背景には、既存の決済手段が抱える構造的な限界があります。

まず現金は、長年にわたり最も基本的な決済手段として社会を支えてきました。しかし、オンライン取引や国境を越えた経済活動には適しておらず、保管・輸送・管理といった運用コストも伴います。国をまたぐケースでは、空港の両替所や銀行窓口で現金を両替する必要があり、その多くは少なくとも2%程度の手数料がかかります。デジタル経済が拡大する中で、物理的な通貨だけでは対応しにくい領域が増えています。

カード決済は利便性を大きく向上させましたが、その運営構造は複雑です。多数の事業者が介在して決済が成立する仕組みになっており、決済を成立させるネットワーク(カードネットワーク)と、実際に資金を移動させる銀行間決済ネットワークは別々に存在しています。その結果、ユーザーが1000円の買い物をした場合、現金であれば1000円が全額かつ即座に加盟店に入るのに対し、カード決済では数%の手数料が差し引かれ、入金も半月から一ヶ月程度後になることが一般的です。この手数料やタイムラグは、資金の効率的な運用という観点では必ずしも最適とは言えません。

また、証券取引などの金融市場においても、権利の移転と資金の移動の間には時間差が存在します。例えば、株式を売却してから実際に資金が利用可能になるまでには、一般的にT+2営業日程度の時間が必要です。

銀行振込は信頼性の高いインフラですが、平日かつ営業時間内といった制約があります。日本では、企業の経理担当者が銀行窓口に出向き、入金や引き出し、税金の支払い、両替などの手続きを行うケースも少なくありません。こうした対応には移動時間や待ち時間も伴うため、業務効率の面で一定の負担となる場合があります。さらに、国際送金では複数の金融機関やネットワークを経由する構造となるため、手数料や処理時間の増加、透明性の低下といった課題も生じます。

こうした背景から、より効率的で柔軟な決済基盤への期待が高まっています。

ブロックチェーンは、不特定多数が参加可能である一方、記録されたデータの書き換えが極めて困難であるという特性を持っています。この仕組みによって、参加者間の高い信頼にもとづいた経済活動を実現することが可能になります。例えば、通貨の発行や移転といった機能を、透明性の高い形で実行することができます。

さらに重要なのは、商流と金流を同一のネットワーク上で処理できる点です。従来、これらのプロセスはそれぞれ別のデータベースシステムによって管理されており、国内的にも国際的にも相互運用が実現していませんでした。しかし、ブロックチェーンネットワーク(その多くは「ワールド・コンピュータ」とも呼ばれます)は、これらのプロセスを統合します。これにより、所有権の移転と決済の完了を同時に実行することが可能になります。例えば、T+0決済(即時決済)のような形で、取引と決済を同時に完了させることができます。

特に、ブロックチェーンネットワーク上で発行・送金されるステーブルコインは、24時間365日利用可能であり、ネットワーク設計やユースケースによってはほぼ即時の決済を実現することが可能です。仲介構造が簡素化されることでコスト削減が期待されるだけでなく、資金移動の効率化にもつながります。

また、スマートコントラクトを活用することで、さまざまな金融プロセスの自動化も可能になります。例えば、円から米ドルへの通貨交換といった処理を自動的に実行したり、外国国債や上場株式といった国際的な投資商品へのアクセスを容易にしたりすることができます。これにより、従来はT+2の決済完了を待ってからでなければ次の投資ができなかった取引も、連続的かつ即時、そして自動化された新しい金融サービスへと進化する可能性があります。

さらに重要なのは、グローバルな相互運用性です。ステーブルコインは国境を越えた取引において共通のデジタル決済レイヤーとして機能し、従来の金融インフラが抱えてきた国際送金の非効率性を改善する余地があります。

もちろん、ステーブルコインは既存の金融機関を完全に置き換えるものではありません。むしろ、ブロックチェーンは既存の金融システムを補完し、より効率的な金融インフラを構築するための技術として期待されています。金融機関がステーブルコインを含む金融商品をブロックチェーン上で発行することで、グローバル市場へのアクセスや新しい金融サービスの創出につながる可能性があります。

同時に、実社会で広く利用されるためには、各国の規制枠組みやコンプライアンス要件との整合が不可欠です。制度設計と技術の両面からの進展が重要になります。例えば、Circle CEOのJeremy Allaireは、ステーブルコイン規制の進展について、明確なルールがあることで企業や金融機関が安心して参加できる環境が整うと繰り返し指摘しています。CoinbaseのCEOであるBrian Armstrongも、ステーブルコインに関する明確なルールが整えば、企業は活動を海外に移すのではなく、米国内でコンプライアンスに沿った形で金融インフラの構築とイノベーションを進めることができると指摘しています。


© MIZUHIKI: The Japan Chain